東京地方裁判所 平成3年(ワ)11344号 判決 1995年11月17日
原告
東洋リース株式会社
右代表者代表取締役
友納春樹
右訴訟代理人弁護士
桑島浩
被告
破産者森茂破産管財人弁護士
阿部三夫
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
被告は原告に対し、金二億一二八八万一六四一円を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として金二億一二八八万一六四一円の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告は融資等を目的とする会社である。
2(一) 原告は破産者森茂(以下「破産者」という。)に対し、左記のとおり、合計金一億六〇〇〇万円を貸し渡した(以下「本件各貸付」という。)。
記
① 貸付日 昭和六一年四月二八日
貸付金額 金三〇〇〇万円
返済期日 同年一〇月三一日
利息 年八パーセント
② 貸付日 昭和六二年三月二〇日
貸付金額 金三〇〇〇万円
返済期日 同年五月三一日
利息 年八パーセント
③ 貸付日 同年四月一七日
貸付金額 金一億円
返済期日 同年六月一日
利息 年八パーセント
(二) 原告と破産者との間に、本件各貸付の返済期日を延期する旨の合意が成立し、①の貸付につき昭和六三年四月三〇日、②の貸付につき同年三月一九日、③の貸付につき同年四月一六日が新たな返済期日とされた。
ところが、破産者は、②の貸付につき、昭和六二年七月三〇日に元金の一部である金一〇〇〇万円を、同年一二月一九日に利息金の一部である金五〇〇万円を返済しただけである。
3 破産者は、平成三年一二月一三日、当庁において破産宣告を受けた。
4 原告は、本件各貸付につき右約定の他、年一四パーセントの割合による損害金の定めがあったとして、元金合計金一億五〇〇〇万円、利息合計金九七〇万九〇四〇円、損害金合計金七六八六万一九一六円を破産債権として届け出た。
5 被告は、原告の右届出債権中、元金合計金一億五〇〇〇万円、利息合計金九七〇万九〇四〇円については異議のない債権として認め、損害金合計金七六八六万一九一六円については、年一四パーセントの割合による損害金の定めがなかったとして、合計金二三六八万九三一五円につき異議を述べ、その余の合計金五三一七万二六〇一円については異議なく認めた。
そこで、被告が異議なく認めた右破産債権の合計額は金二億一二八八万一六四一円となる。
二 当事者の主張
(原告の主張)
1 (本案について)
(一) 本件各貸付については、破産者が原告に対し、各貸付金に見合う担保を差し入れることが条件とされていたところ、昭和六二年八月一一日までの間に、破産者の要請により、原告は破産者が当初差し入れた担保を別の担保と差し替えることを承諾した。ところが、破産者は、右担保の差替えに際し、同人の申し立てによる除権判決により既に無効とされた小堀住研株式一万二〇〇〇株及びイトーヨーカ堂株式一〇〇〇株をあたかも有効な株券であるかの如く装って差し入れたり、また、担保として株券の保護預り証を差し入れた藤倉電線株式七万株、大成建設株式二万二四〇〇株及び大林組株式二万株につき、右保護預り証を発行した日興証券にこれを紛失したと偽って再発行を受けて当該株式を他に売却するなどして担保を毀滅した。
破産者の右行為は原告に対する不法行為に該当する。
(二) 原告はこれにより、本件各貸付に係る金員を回収することができなくなり、少なくとも、被告が異議なく認めた債権額である金二億一二八八万一六四一円と同額の損害を被った。
2 (訴訟要件について)
本件訴えは、破産債権の確定訴訟ではなく、本訴請求に係る債権が、破産法三六六条の一二第二号に定める「破産者ガ悪意ヲ以テ加ヘタル不法行為ニ基ク損害賠償」として免責の及ばない債権であることを明らかとした債務名義を予め得ることを目的とした破産債権に関する訴訟である。
(被告の主張)
1 (本案について)
(一) 原告は、平成三年二月二〇日には、破産者が保護預り証に係る担保を毀滅したことを知っていたところ、原告が破産者の担保の毀滅による不法行為に基づく損害賠償を請求したのは平成六年一二月一九日であるから、右毀滅に係る損害金九六九二万円については、時効により消滅した。
(二) 被告は、本訴において右消滅時効を援用する。
2 (訴訟要件について)
被告は、原告の本訴請求に係る債権額については異議なく認めており、原告と被告との間には何らの紛争もない。
また、原告の請求が貸金債権によるものではなく不法行為に基づく損害賠償権であるとすると、右損害賠償債権は、届け出られておらず、被告は、破産手続において異議を述べることも認めることもしていない。
そこで、本件訴えは、破産法に定める破産管財人の受継する破産債権に関する訴訟には当たらない。
第三 判断
本件訴えの適法性について判断する。
一 本件訴えは、原告が破産者のした不法行為により被った損害金二億一二八八万一六四一円の賠償を求める訴訟であるところ、右損害賠償債権は、破産者に対して破産宣告前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であるから破産債権に該当し、破産債権は破産手続によらなければこれを行うことができないこととされている(破産法一六条)。そして、破産法は、その債権の行使方法として債権届出の手続を設けており、右届出に対して異議が述べられたときに、債権者は異議者に対して債権確定訴訟を提起することができることとされている。
そこで、原告は、右不法行為に基づく損害賠償債権については、破産債権としての届出をしていないのであるから、これについて、債権額を確定するための訴訟を提起するなどして右破産債権を行使することはできないものというべきである。
もっとも、法律上は二個の異別とみなされる債権であっても実体法上は一回の給付しかもたらさない経済的に同一の債権である場合には、届出に係る債権に代えて右異別の債権による確定訴訟の提起や訴訟の受継が許されるとの見解があるところ、右の見解に立ち、かつ、本件における貸金債権と不法行為に基づく損害賠償債権とが右にいうところの同一の債権とみる余地があるとしても、本件においては、原告のした貸金の債権届出につき、被告は貸金債権金二億一二八八万一六四一円を異議なく認めているのであるから、右債権額について異別の債権による確定訴訟の提起等は許されないものというべきである。
二 原告は、これに対し、本件訴えは、破産債権の確定訴訟ではなく、破産法三六六条の一二第二号に定める免責の及ばない債権であることを明らかとした債務名義を予め得るための訴訟であると主張するが、破産法は、破産債権については、右確定訴訟の提起や訴訟の受継手続以外の債権行使方法を定めておらず、また、免責決定の効力が当該破産債権に及ぶか否かは免責の抗弁について判断する訴訟裁判所が判断すべき事項であることからすれば、免責の及ばない債権であることを明らかとした債務名義を予め得るための訴訟というものは法の予定しないものであるという他はない。
したがって、本件訴えは、不適法であるというべきである。
第四 結語
よって、本件訴えは不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官金子順一)